1ヶ月以上も音沙汰の無かった女性の名前とその女性の電話番号が携帯のディスプレイで躍っている。それとともに64和音の軽快なメロディが鳴り響いている。何を今更…、とまぁ何というかその女性とは色々あったので電話に出るのを多少躊躇ったのだが、居留守を使う訳にも行かず仕方無く、ふぅと一息入れてから電話をとった。彼女はすぐにこう言った。

「子供できたみたい」

 正直、半ば予想はしていた。ただ彼女があまりにも感情の無い声でそう言ったことに驚いた。おそらくそういう事になれば怒り狂うと思っていたからだ。一呼吸置いてボクはそうか、と言った。それから一度会って話そうとだけ告げて電話を切った。

 次に彼女に会ったのはいつもの友人グループの中でだった。電話で具体的な日も決めずに会おうと言ったままボクは彼女に連絡をしなかった。すると、たまたま別の友人がひさしぶりにみんなで遊びに行こうと言い出したのだ。そこにはやはり彼女も来ていた。居酒屋で少しお酒を飲んだ後みんなでブラブラと歩いている時に、ボクは彼女の肩を掴んで友人達と少し距離を作った。そして、どうするつもりなんだと話を切りだした。彼女は思いの外嬉しそうに「産むつもり」と言った。開き直っているのかもしれないと思ったが彼女は素直に喜んでいるように見えた。ボクはとても不思議だった。彼女は仲の良い友達で、ボクは彼女の事がとても好きだった。だから彼女と一緒に寝た時はとても嬉しかった。恋人同士になれたんだと思った。けれどそれ以来彼女は一度も連絡はくれず、ボクはフラれたんだなぁと決めつけていた。それなのにボクの子供を宿してしまった彼女が嬉しそうに産むと言っている。ボクは何を言っていいのかわからなくなってしまった。

 少しして彼女がボクの顔を見て笑いながら結婚しようかぁと言った。ボクも結婚しようかぁと無意識に返した。みんなには内緒でねと彼女は悪戯っぽく言った。ボクは好きな女性に子供ができた喜びと今の自分の状況とを照らし合わせて複雑な気分になりながらこれからどうしようかと真剣に考えてしまったのだけど、彼女がボクの手を掴んで自分のお腹に当てるとボクはもう本当に嬉しくなってしまって幸せな気分になった。ボクたちはまだ大学生なので借金しないとねぇなどと小声で話ながら友人の輪の中に戻った。するとその友人の中で一番ひょうきんなS君がふざけてみんなを笑わしていた。ボクは笑った。彼女も笑っていた。心の底から笑い続けていた。






という夢を見ました。