下書き広場

膨れっ面で前を歩く3人、いやモリタスをキッと睨みつけながら「こんなはずじゃなかったのに!」とむったんは怒り心頭だった。1学期末テストが終り、勇気を出して旅行に行こうと提案したのは、決して仲良しグループの思い出旅行なんかじゃなくて、それはロマンチックなムード溢れるひと夏の思い出のためだった。確かに、そりゃあ確かに「2人で」とは言わなかった。言わなかったけど、わかるでしょ…。幼馴染のにぶさを計算に入れなかった自分を恨みつつ、むったんは「はぁ」と大きなため息をついた。

「あー、あの船じゃない?ねえ、むったーん!」

と突然大きな声を出しつつカオリが振り返ったので、むったんは急いで暗い顔を打ち消し笑顔を作った。今から楽しい旅行なのにクラスメートのカオリにそんな顔を見せられるわけがない。

「おっ、なかなかいいじゃん。こりゃあ“楽しいこと”がありそうだなー。へへ」

とにやけた笑みを浮かべているのは同じくクラスメートのピンキー。モリタスと仲が良く、モリタスが旅行のことをピンキーに話したところ彼はすぐさま「そんな楽しい話にオレが便乗しないわけないでしょう」と言い、モリタスはいつもの調子でそれを受け入れたのだった。その後、「バランスが悪い」というピンキーのよく分からない言い分によりカオリも参加することになり、結局むったんが夢想していた「2人のアイランド」構想は脆くも崩れ去ることとなったのだった。

はしゃいでいる前方の3人を見て、むったんはもう一度「はぁ」とため息をついたが、「まあ、今回はみんなと楽しい旅行でいっか」と気を取り直すことにした。何も言わずにこにことただ笑顔のモリタスを見るとやはり少し腹は立つが、思い出はたくさん作れるはずだし、それにまだ何も進展が無いと決まったわけじゃない。

「キレイな船だねー」

とむったんは小走りでカオリのところまで行き、船着場に停泊しているクルーザーを眺めた。

この旅行の目的地は「島」。一応は東京都だが、東京からは100km弱ほども離れているその島へ行くためにむったん達4人は静岡県下田港までやってきていた。そこからクルーザーで3時間ほどで着くらしい。むったんとモリタスは小さい頃に一度行ったことがあったが、その時はこんなに豪華な船では無かった。近年、例に漏れずその「島」にも過疎化の波が押し寄せ、それに危機感を持った役場が観光化に躍起になった結果の一つとして豪華クルーザーが用意された。その成果もあって観光客は増加傾向にあるらしい。その証拠か、単にシーズンだからなのか、船着場にはむったん達の他にも10人ほどの人で賑わっていた。どうやら皆、目的地は同じらしい。

          • -

●船着場の10人を誰にするか。
●どこで一人目を殺すか。